基本的に拙者は悪役を好み申す。なぜなら、小説書きの思想のもっとも暗い部分がもろに露出される所だからでござる。同時に毒舌の味方キャラも好きでござるな。作者の本音が聞ける場面でござるから。
今回のレオ殿の作品が、どういうストーリーなのかは、拙者はよく知り申さぬ。よって、単純に作品だけを批評いたす。 戦闘シーンは、魔法での戦いと言うよりも、言葉での戦いといった印象を受け申す。巧いのでござるが、軽い。肉が引きちぎられ、骨が砕け、鮮血が飛び散る、といったような激しい描写はなく、肉体がぶつかり合っている印象はござらぬ。戦闘でありながら、ソフトな印象を受け申すな。これが欠点か長所かどうかは意見が分かれるところでござろう。 そして、レオ殿の今回もっとも拙者が優れていると思う点は、敵のおじいさんの台詞。主人公の返し技(言葉)よりも、こっちの方がずっと優れていると思う。以下はその引用でござる
「人間は自分を設定するのが好きではないか。プロフィールとでも言うぺきか? 名前・性別・年齢・生年月日・血液型・性格・嗜好・現在・過去・友達・家族・敵対者・所属・出身地・民族・人種-------実にくだらないな。それにこだわり、それを意識して、昨日の間違いに悔恨する。昨日の過ちが、今日に影響するとでも本気で思っているのか? 所詮、昨日の事は昨日にしかずきない。自分の設定と他人の設定を知って、安堵する。そして他人の設定との誤差を発見し、嘆きの言葉を漏らす」 ……「喜劇だな」 ……「喜劇以外のなにものでもなかろう。シレーネの過去を設定したのは私だ。それをお前達が勝手なイメージでシレーネの設定を肉付けしていった。シレーネはな、【暗黒流星】の因子をもつ、未熟児を私が培養し研究してきた25番目の実験動物だ。Yは登録番号だ」 ……「シレーネはこんな化け物ではない、と思ったか?」 ……「真実は最初からシレーネはこんな化け物だったわけだ、喜劇であろう?」
思うかではなく、影響します。(笑)物理的に考えても、精神的に考えても、影響するのは明らか。ただ、ここでおじいちゃんが言っているのは、過去にこだわる事の弊害であり、それを極限にどぎつくした物といえるでござろう。拙者はいくらでもこれに反論がござるが、それはあえて言い申さぬ。作品の良さの一つは、その作品に対していかに考えられるか、愛せるか。つまり、いかに自分の心をさけるかなのでござるから。これはそういう意味で実に良いアンチテーゼでござろう。
個人的に一番うれしいのは、多方向に展開できるよう作ったシレーネが、ここできちんと生かされた事。拙者のシレーネとレオ殿のシレーネを見れば明らか。設定を生かし、それを息づく人とするのは作家なのでござる。
残念なところがあるとすれば、テーマの割に深刻さが無い事。なんというか、敵も戦いが終わった後は主人公と舞台裏で煙草吸ってだべっていそうというか、シレーネも役割終わったから帰るね、みたいに出番を終えている所でござるかな。 何が残ったのか、何が結果となったのか、それがもっと知りたかったでござるな。
|